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 東京西徳洲会病院
 小児科難病センター顧問 神経・発達部
二瓶健次氏 
DR. KENJI NIHEI


前頭葉を働かせるものもあれば
リラックス効果があるものも


――今までの様々な経験の中でおもちゃが子どもの発達に役立っているという確信がありますか?


 確信と言われてしまうとデータがあるわけではないのでおもちゃの効果をどう評価すればいいのか難しいですね。ただ、コミュニケーション能力不足や多動など色々な問題がありますが、それらの原因の多くは前頭葉にあると言われていますし、前頭葉を訓練するのがいいとも言われています。

 以前に「光トポグラフィーによるおもちゃと脳の活動の測定」(光トポグラフィー:近赤外光を頭部に照射し、その反射光によって人の認知や行動を司る大脳皮質の働きを探る技術。大脳皮質にある運動野や言語野など、人の行動に直結する高次脳機能の活動を測定できる)という実験を行ったんですが、子どもにブロックを使って車を作ってもらい、その時に脳のどの部分が働いているかを調べてみました。

 子どもは色々と創造力を働かせながら組み上げていきますので、ブロック遊びの操作をしている時は前頭葉がかなり働いていました。つまりただ手を動かしているのではなく、人間として一番重要な脳の高次機能が使われているということで、結果としてブロック遊びをすることは発達に良いのかも知れません。

 ところが、子ども達が好んで遊び、私も最高のおもちゃの1つだと思っているクーゲルバーンで遊んでいる時を調べてみると前頭葉が全く働いていませんでした。

―― 良いおもちゃにも関わらず?

 ですから、おもちゃの中には前頭葉が刺激されるものとそうでないものがあって、クーゲルバーンは良いおもちゃにも関わらず前頭葉が働かないんです。ただし皮膚の電位を測定することで交感神経の様子を見てみると、玉が転がり出して、最後に鉄琴に当たって音がする時に、電位がグーンと下がっています。3回測定して3回とも同じ結果でした。これが何を表しているかというとリラックスの度合いなんです。クーゲルバーンで遊ぶとリラックスできる。特に最後に玉が落ちて終わった時にホッとしている感じがあるんです。

――そうすると遊びは前頭葉を活発化させるものだけが良いということではなく、リラックスさせるから良いおもちゃということも考えられるわけですか?

 そうですね。前頭葉を働かせるとかリラックスをさせるといった要素の他にも、おもちゃを科学的に研究していくと面白いことが、子どもの発達を促すような様々な要素がもっと出てくるのではないでしょうか。

―― 実際に国立小児病院の時代から、そしてこちらの病院でもおもちゃライブラリーで子ども達の発達診断をされている心理療法士の白川公子先生にもお話を聞きたいんですが、発達に合ったおもちゃというのはどのように判断されるのですか?

白川 身体の発達を、それこそ粗大運動から手先の微細運動まできちんと観察し、そして子どもの情緒的な発達などからトータルで判断して、今の発達段階で最もよく遊べるおもちゃ、あるいは遊ぶことで発達を促すことのできるおもちゃなどを選びます。

 特に現代ではコミュニケーションを上手く取れないといった発達の問題を抱えている子どもが多い中でおもちゃの役割はますます重要になっています。誰かと関わって遊ぶという経験は大抵の場合はお母さんとのコミュニケーションから始まって、そこから友達など周囲の人達と関わるようになっていきます。そうした他者との関係が広がっていくような展開を引き出せるおもちゃ、つまりコミュニケーションを促進するおもちゃがすごく大事なんですね。

 また5歳以上の子どもにはゲーム性があって、コミュニケーションをとりながらできるものが好まれるようです。こだわりが強く、負けるのは絶対に許せないという自閉性障害の子どもの中には、負けると怒り出す子どももいます。そうした場合も遊びを通じて我慢することを少しずつ学ばせなければいけないと思います。

―― 遊びを通じて社会性を身に付けさせるわけですね?

白川  ただ言葉で説明しても分からないのでゲームなどのルールのある遊びの中で教えるとか、ソーシャル・スキルを遊びの中で覚えさせるということもおもちゃの役割の1つだと思うんです。実際に4月から病院でソーシャル・スキル・トレーニングを実践していく予定ですが、色々な方法論がある中でおもちゃもそのツールの1つになっています。

――おもちゃライブラリーに来る子どもやお母さんを見ていて気になる傾向や変化はありますか?

白川 最近感じているのは、お母さんが遊び方を知らないというか、遊ばせ方が下手というか、子どものレベルで遊べないんですね。

 おもちゃの遊び方を1つ見せると、その遊び方に子どもを引っ張ってしまう。子どもは1つのおもちゃを見たときに色々なことを考えて、色々な探索操作をします。それをお母さんは待てなくて、「これはこうやって遊ぶんでしょ」と言って遊ばせてしまう。子どもにとっては色々な遊び方をすることが大事だし、中にはとんでもない遊び方をする子どもがいるかもしれませんが、それも必要なことなんです。

 ですから我々としてはお母さんが余裕を持って子どもが遊ぶのを見守ってあげるということを指導しなくてはならないので、お母さんと子どもの間に入って、アドバイスをしながらお母さんと子どもを上手く遊ばせていくんです。

―― いわば親の教育もしなくてはならないんですね。

白川 正直、親への動きかけが一番大事です。子どもは面白くて楽しくておもちゃでいっぱい遊ぶんですが、それにお母さんがどう対応していけるかが重要なんです。お母さんが子どものそばにいても、子どもは独りで遊ぶということも多くあります。

 今の若いお母さんは子どもの発達そのものを分かっていないことが多くて、この間も4ヵ月の赤ちゃんにトイレトレーニングをしようとしたり、本当に驚くような育児をされているお母さんがいますし、育児書通りに進まないと気が済まないお母さんもいます。

 育児書にはこういう発達段階にはこういうおもちゃを与えるということは書いてありますが、そのおもちゃでどんな遊びができるかは書いていません。だから1つのおもちゃで色々な遊び方ができるのに、お母さんにはそれが理解できなくて、説明書に書いてある通りにしか遊べないことが多いですね。   

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