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東京西徳洲会病院
小児科難病センター顧問 神経・発達部
二瓶健次氏 
DR. KENJI NIHEI


シンプルな木製玩具「クーゲルバーン」が
子ども達に人気


―― 男の子と女の子では好きなおもちゃの種類に違いがあるのでしょうか?

 すごく不思議なんですが、男の子は車や怪獣、動くおもちゃなどを好むといった、科学的な実証はないんですが、やっぱり違いがあるんですね。それも1歳くらいからそうした嗜好が見られていて、男性ホルモンとか女性ホルモンとかがまだ影響していない時期なのに性別による違いが見られるんです。

 これは個人的な考えですが、動物の子どもの遊びを見ていると、例えばボールを走って取りに行くとか、自分の尻尾を追いかけて回るとか、おそらくそうした行動は獲物を捕るための基本的な訓練で、赤ちゃんの頃からそうした刷り込みがされているんじゃないかと思うんです。だから人間も同じで、男の子の方が狩猟本能が強いというか、動くものに興味を持つというのはおもちゃを通して何か訓練みたいなことをしているのかなと最近考えたりしています。

 ただ積み木とか基本的な遊びについては男の子も女の子も違いがなく、どちらも好きですね。でも男の子が怪獣を好きなのは今のところよく分からない。だって怪獣という概念が最初から頭の中にできているわけではないし、50年前とか100年前とかには怪獣のおもちゃなんてなかったはずなのに、多くの男の子が怪獣に興味を持つというのは本当に不思議だし面白い。特に自閉的な子どもの中には驚くほどたくさんの怪獣の名前を全部覚えている子どもがいたりしますから。

――発達に遅れが見られるけれども、特定の部分ですごく発達が進んでいるということでしょうか?

 そうですね。全体的には遅れているけれども、記憶力とか認識力が抜きん出ているとか、微妙な形の違いが瞬時に分かったりするので、例えば裏返しにしたジグソーパズルでもピースの形だけで判断して組むことができる。そういった能力がありますね。

―― 子どもが熱中して遊んでいる時はそのままにしておいた方がいいのでしょうか?

 集中して遊んでいる時は、おそらく頭の中で色々な想像をめぐらしているはずですから、そのまま遊ばせておくのが一番良いですね。おもちゃの良い点というのは、色々な遊びがあるという物理的な面のほかに、人間の生理学的な面に及ぼす影響のもの、いわゆる脳の高次機能に影響するものがあると思いますが、例えばやり方をちょっと変えてみたらどうなるかとか、何かを創作してみるとか、因果関係とか、時間的な概念とか、そういったものを養うのにおもちゃは非常に影響があると思います。

―― おもちゃライブラリーに来る子どもの年齢幅は?

 小学生の子どももいますし、年齢の幅は結構広いですね。ライブラリーに入ったらすぐに自分の好きなおもちゃのところに行く子どももいれば、どうしたらいいのか分からなくて動かない子どももいて、色々なタイプの子どもがいます。子どもの性格もそれぞれ違うし、脳の機能も運動機能も違いがあるので、だから色々な種類のおもちゃを用意しておいた方がいいんです。

 以前の病院ではおもちゃライブラリーに200種類以上のおもちゃがあって、子ども達がどのおもちゃを好むかという実験をしたことがあります。一番人気があったのはクーゲルバーンというおもちゃで、これは木製のスロープを玉が転がっていき、最後に玉が鉄琴の上を転がると「コロンコロン」ときれいな音が響くものです。クーゲルバーンが基本になっているおもちゃというのはたくさんありますね。というのもクーゲルバーンには押したり、つまんだり、入れたりといった手の動作、眼で追うという眼球の動き、あるいは時間的な因果関係など、色々な要素が入っているんです。ですからこのおもちゃでどう遊ぶかによって、その子どもがどういう発達段階にいるのかが分かります。そういったおもちゃが他にも色々とあるといいですね。

―― 子ども達の中にはおもちゃでなかなか遊べなかったり、色々と関わってみても遊べるようになるまでに時間がかかったりということもあるのでは?

 そうですね。結局、おもちゃだけを渡してもダメで、子どもとおもちゃの間に介在する人が重要です。おもちゃに限らずテレビを見るといった行為でも同じで、そこに関わる人が重要なんです。だからテレビも子どもに見せっ放しにするのが良くないのであって、親が一緒に付いているのであれば決して悪いことではないんです。

発達に問題を抱えた子どもが
「ごっこ遊び」をできるように指導


―― 子どもと一緒に病院に来るのはお母さんが多いですか?


 
昔に比べたらお父さんも随分と育児に協力的ですが、でも現状ではやはりお母さんが連れてくることが圧倒的に多いですね。お父さんとお母さんでは同じおもちゃでも遊び方が違っていて、例えば本来は投げて遊ぶものでなくてもお父さんはキャッチボールみたいにして遊んでくれるとか、お風呂で遊ぶおもちゃだってお父さんと一緒に入る時とお母さんと一緒に入る時では子どもが選ぶおもちゃも違うと思うんです。そう考えるとお父さんの遊びというのも大事ですから、できるだけ子どもと一緒に遊んで欲しいですね。そもそも男というのはいつまでたっても子どもっぽさが抜けないものですから(笑)、子どもの感覚に近いところがあるのではないでしょうか。

―― ところで、ごっこ遊びができるのは5歳くらいからですか?

 
そうですね。実はごっこ遊びができるかどうかは非常に重要なところで、発達障害とか多動(注意の集中が長続きしないで絶えず動き回ること)といった問題を抱えた子どもにはごっこ遊びが非常に難しいんです。

―― そういった問題は親子関係などが影響している面もあるのでしょうか?

 
昔は親子関係にも原因があるとされていたことがありますが、それよりも脳の機能的な障害があるとされています。状況判断ができない子ども達はおもちゃの扱い方も上手ではないし、特に自分ではない誰かになって遊ぶということが難しいんです。
 
―― それでも誰かが関わることでごっこ遊びができるようになっていくわけですか?

 
おもちゃライブラリーでは、ごっこ遊びができるようになるような指導を行っていきます。その中でおもちゃが手段の1つになっていて、やはり人とのコミュニケーションが上手くできない時はそこに何かを介在させることで上手くできるようになることも多い。そこで媒体となるのはおもちゃもそうですが、あとは動物も良いですね。子ども達の興味を引くようなものを媒体にするとコミュニケーションが上手く取れない子ども達の治療には効果があるんです。

―― 発達が遅れていない子どもも含めて、コミュニケーションを取るとか、役割分担をするとか、そういったことが苦手な子ども達が最近非常に多いように思いますが。

 
発達が遅れている子どもの話ばかりしてきましたが、健常な子どもでもコミュニケーション能力に問題があったりしますし、基本的にはすべての子どもに当てはまる話だと思います。

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