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 お茶の水女子大学
 理事・副学長 学術博士
内田伸子氏 
 MS. NOBUKO UCHIDA


私が考える「良いおもちゃ」の
大事な条件は3つ


――どちらのタイプの方が良い、悪いという問題ではないのですね?


 幼児期の終わりにはどちらのタイプの子どもでも他人の視点に立ってモノを考えることができるようになりますので、図鑑型の子どももきちんと挨拶するようになります。

 また、例えばお祖母ちゃんから嫌いな色のブーツをもらったとします。5歳を過ぎると「あんまり好きじゃないけど、せっかくお祖母ちゃんがくれたから」と考えられるようになりますが、これが3歳児だと「いらない」と即答するでしょう。他人の視点に立って自分の身を飾ることができる「ディスプレイ・ルール」を獲得した5歳児とでは対人関係における振る舞い方が違うんです。

 4歳というのはその中間で、そろそろ他人の視点も気付き始めるので、同じような状況に置かれるとすごくモジモジして、「あんまり好きじゃないけど、せっかくお祖母ちゃんがくれるんだし」とものすごく悩むんです。一歩後退したようにも見えますが、これも飛躍のための大事なステップなんですね。だから私は「恥ずかしがり屋の4歳児」とニックネームを付けているんです。そんなふうに子どもには個性があって、対人関係の中で少しずつ自分の表現形式を変えていきます。

 ですから、子どもにとっての「遊び」というのは、そうした個性や成長の段階の中で、自分の持っている体験や記憶の中にある知識を現在の文脈の中に取り出して、自分自身でそれに働きかけて、変化を与えたり、実際に自分の身体を見立てたりしながら、そのモノやコトの本質を見極めるような働きのことです。自分の世界地図が次第にはっきりと霧が晴れていくように見えていくようになること、それが乳幼児の遊びの意味なんです。

――正に遊びを通して成長していくということですね。その遊びの道具がおもちゃだと思いますが、良いおもちゃ、というのはどういった条件を満たしたものだとお考えですか?

 学びには原則があって、子ども達が快適で楽しい気分の時に最も地図づくりは進みます。ですから、おもちゃで遊んでいる時に楽しい、嬉しい、ハッピーといったポジティブな感情が沸きあがるようなものでなければ、そこから学ぶものは少ないんです。そういった感情が沸きあがるおもちゃ、それが良いおもちゃではないでしょうか。
 
 それから、遊びを繰り返させるような動機付けがあるもの、これも大事です。遊びを通して子どもは成長します。同じ遊びでも、子どもが繰り返し遊んでくれるものは、そこから子ども自身が吸い取れる栄養がまだあるということなんです。

 例えば買い物に行く途中で穴を見つけて、そこに手を入れてみる。次の日もまた同じところに手を入れてみると、お母さんは「昨日もやったじゃない」と言って、手を引っ張っていきます。でも、子どもは昨日と今日では違う感触を感じているわけで、マスターしてしまったらもう手を入れなくなります。まだ新しい何かを感じることができるから繰り返しがある。1回目に触った時と、2回目に触った時では、全く違ったものを学んでいるはずです。穴に手を入れるという行動を大人は遊びだとは思わないかもしれませんが、子どもにとってはこれも大切な遊びなんです。

 私が考えるおもちゃの大事な条件は3つあります。1つ目は、とにかく子ども自身が頭を一所懸命に働かせることができるもの。その活動をする時にイメージを色々と膨らませて、五感を使って働きかけることで、頭がすごく活発に動くようなものでなければいけません。

 2つ目は、子どもの発達水準を踏まえたものであること。発達というものは原則はスパイラルですが、領域によっては階段を上るようなものであり、可逆的な操作やプランを立てることやメタ認知といった5歳前半ではどうしてもできないものがありますから、そうした発達水準をわきまえて開発したりおもちゃを与える必要があります。

 カットバックといって夢の中の出来事を理解できるようになるのも、因果推論の元になる可逆的な操作ができるようになるのも5歳後半です。ですから3〜4歳向けのある幼児番組で夢の中の出来事という演出がよく取られていましたが、これは誤りです。この年齢の子どもはまだ夢の中の出来事という処理ができませんから。

 5歳後半になると、脳の前頭連合野の情報処理をつかさどるワーキングメモリーと大脳辺縁系の海馬がリンクして、情報処理として非常に効率の良いものに変わります。メタ認知ができるようになるのも5歳後半で、これは自分の中にもう1人の自分が誕生するということです。

 ごっこ遊びを見ていると、4歳のクラスと5歳のクラスでは大きな違いがあります。5歳クラスになると異議申し立ての言葉がたくさん出てきます。5歳児が小学校に通っているお姉さんと幼稚園ごっこをしていて、お姉さんが「はい、給食の時間です」と言うと、「おかしいよ。幼稚園はお弁当だよ」といった言葉が出てきます。これは明らかにメタ認知が働いているということですね。遊んでいる自分をしっかりと見ているもう1人の自分がいて、筋を立て直すために異議申し立てをします。4歳クラスではそういったことは起きません。

 また、1歳半くらいから抑制機能を発達させるということは1つの課題でもあります。線の上を真っ直ぐに歩くとか、目をつぶろうとしてつぶるとか、ハサミを上手に使うとか、こうしたことは神経細胞の抑制ニューロンが働かないと不可能なんです。つまり、全部動かすのではなく、動きにブレーキをかけられるようになってはじめてできる。そのためには体操番組などでも単にリズミカルに歌って踊るのでは意味がなくて、発達初期の1歳半から2歳半に与える体操であれば、ゆっくりとした動きも取り入れる必要があります。調節しながら、ブレーキをかけながら、力をためながら動かすことを覚えていくことで抑制ニューロンを発達させていくんです。

 それからおもちゃの大事な条件の3つ目ですが、これは応答することです。子どもが働きかけたことに対して反応が返ってくるようなおもちゃですね。この3つの条件を満たせば、子どもが面白いと思えるようなおもちゃになると思います。

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