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 東京家政大学
 東京家政短期大学 名誉教授
片岡輝氏 
MR.HIKARU KATAOKA


遊びは発達のプロセスにおける通過地点

――ままごとのようなごっこ遊びは子どもの成長にとって非常に重要な遊びだと思うのですが。


 ごっこ遊びも発達段階と関連があります。ごっこ遊びは何かになることによって成り立っているものですから、遊んでいる子どもがその真似ができないと成立しません。真似るということは、そのモデルの行動を記憶して自分の脳の中でそれを呼び起こしながらそれと自分の行動を一致させる必要性があります。そういった発達段階に達した子どもがごっこ遊びを始めるのです。そしてその子の発達がごっこ遊びに代わるもっと魅力的なものを求める段階に達すると、ごっこ遊びから他の遊びに移っていく。

 ごっこ遊びの段階の前に人形遊びというのがあるのですが、その人形はペットと同じで子どもが個人的な感情移入をするという関係であり、思いを託す依りしろになります。これはつまり子どもと人形の1対1の関係ですね。

 これに対しごっこ遊びには、自分が真似をするお母さんという他人が入ってきますし、ごっこ遊びは1人で遊ぶよりも友達と遊ぶ方が楽しいので、さらに他者との関係が入ってくる。人形遊びよりもごっこ遊びの方がより開かれた関係がそこに出てくる。

 そしてさらに今度はごっこという想像上の関係ではなくリアルな人間関係での遊びとして、鬼ごっこのようなAちゃんとBちゃんといった人間同士の遊びの方が楽しくなるという次のステップに移っていくのです。ですからこうした遊びは発達のプロセスで通過していく通過地点とも言えますね。

 このように子どもは発達段階をワンステップずつ上っていきます。それが一番順当なのですが、あるとき一飛びにスキップすることがあります。その場合、確かにその子は上の段階に至っているのですが、スキップした部分の発達段階についての体験を飛ばしている。

 そうすると順当に来た子どもとは少し意味が違ってきます。スキップをすると後でその部分が足りないことに気付いて、赤ちゃん返りではないですが戻ったり、あるいはそれがトラウマになることもあります。

―― 女の子は人形遊びからごっこ遊びへ、ごっこ遊びからさらに人間関係が深くなるような遊びにステップアップしていくということですが、男の子の場合もやはり同じだと考えて良いのですか?

 男の子の場合、フィギュアなどを使った人形遊びから、次は自分が例えば仮面ライダーになりきって遊ぶごっこ遊びなどにステップアップしていきますが、特徴的なのが男の子はそういったフィギュアをコレクションして、その違いを自分だけが知っていること自体を楽しみます。そのこだわり自体がメンタルな部分での成長であり、そのこだわりが実はつまらないことだったんだと気付いて、そのおもちゃの新しい楽しみに気付くといったように、同じおもちゃでの遊びでもその子によって発達段階による階層があるのです。

―― 一般論として今の子どもはコミュニケーション能力が昔より低下していると考えている人が多いと思うのですが、そうした能力を育むためにも玩具で遊ぶことが役に立つと思われるのですが。

 おもちゃにはコミュニケーションをサポートするようなものが結構あると思うのです。携帯電話型の押すと音声が出るようなおもちゃを子どもは好きですし、本物の電話でも遊びたがりますね。子ども達はもともと外に広がっていこうという志向を持っておりコミュニケーションをしたいという意欲を持っています。それを如何に伸ばしてやるかが重要です。

 例えば電話のおもちゃで子どもが「もしもし」とやっていた場合に、お母さんが「なあに」と相手をしてあげることで、コミュニケーションの遊びが広がります。親が何の反応もしなければ子どもは一人遊びをするか、そういった遊びに興味を失います。

 コミュニケーション能力が低下している1番の要因は、やはり家庭の中でのコミュニケーションが薄くなっているところにあると思います。子どもがコミュニケーションを嫌いになったわけではなくて、それをトレーニングするチャンスを大人が奪っているのではないでしょうか。

 例えば1日のうちで親が子どもにかけている言葉を調査すると、「早くしなさい」とか「何々をしなさい」といった命令言葉だけになっています。場合によってはそれすらも1日合計で何分もしゃべっていないことがある。現実の生活の中でコミュニケーションができていないのに、子どものコミュニケーション能力を発達させることなどはできません。

親も一緒に遊ぶなど
良い記憶が残るような玩具の与え方が重要


―― 子どもの問題はつまり社会的な問題だということですね。最後に子どもにおもちゃを与える際に最も重要なことは何か教えて頂きたいのですが。

 例えば子どもが何かを食べている時に、別の何かを食べさせようとすると、子どもは今食べているものをパッと吐き出してしまいます。子どもは新しいものにすぐに興味を移すものなのです。

 これはおもちゃもそうで、次々と新しいおもちゃが子どもの周りに溢れていますから、ちょっと遊んだら次の新しいおもちゃに興味が向いてしまう。子どもは1つのおもちゃでしばらく遊んでいると、その機能や面白さが分かってきます。そうするとすぐに自分が次に遊びたいおもちゃをおもちゃ箱から持ってきます。そのときに1つのおもちゃでじっくり遊び込むという経験がない子は、目移りしてすべてのおもちゃをおもちゃ箱から引っ張り出すのですが、いずれも深くじっくり遊ばないで終わるケースが多いのです。

 保育園などでも、多くのおもちゃがある中で1つのおもちゃで遊べる子どもと、いくつものおもちゃで落ち着きなく遊ぶ子の2タイプに別れるのですが、これもやはり生育歴や自分がどのように玩具と関わってきたか、ということが反映していると思うのです。そういうことを考えると、子どもが遊んでいるときにお母さんが声掛けをするとか、一緒に遊ぶといったちょっとしたサポートをすることで、後々になってもお母さんとその玩具で楽しく遊んだという良い記憶が残ります。そのような与え方をしていけば、そのおもちゃはその子にとって大切な思い出になりますよね。このように1つのおもちゃをじっくりと遊ばせるように与えることは非常に重要です。  

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